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<27>詩集『生の泉』/中村剛彦 [無謀なる365冊]

ご恵送ありがとうございます。
表紙の網網が綺麗です。
中村剛彦『生の泉』514GEX2wmrL.jpg

二人の若い詩人は死んで、一人は生のかなたへ、
もう一人は泉の無尽へ。

この復活の書に、内省の破綻と波乱にどんな動物が出てくるかを視てみたい。
一番綺麗な詩「残照」
以下引用〜 

中空には月があります
野原では少年が兎を追いかけています

果樹園のお婆さんは何を摘み入れて
あんなにかごがいっぱいなのでしょう

ロバが小屋から出てきました
晩ご飯を探しているようです

〜引用終り
まず<兎>、そして<ロバ>
とりあえず漠然とした空を舞う絵本の一頁なのかしら
いいやなにかがリアル

そして<驢馬>
まぼろしの驢馬の瞳は忘却の筆が少しずつ消してゆくのだと云う、(「驢馬』)

「君から譲り受けた幻の驢馬の仔」を捨てて来てしまったらしく、
「驢馬の亡骸の絶叫」のみが聴こえてくるのだ。(「帰郷」)

そこは詩想のなか、
ノートを開けば「意味のない芸を繰り返す一人ぽっちの犬がいる」
犬は吠えつづけ「ノートは灰となる」。(「詩想」)

「書物のなかで生きる獣」たちらしい、おそろしい叫び声を上げている。
それは「永遠に生を抜き取られた怪物」たちである。(「詩想二」)

「かつて詩人を夢見た中年男」が狙っているのは、<鼠>だ。
しかしながら<鼠>はすでに記憶の祭壇で<黒猫>に咥えられてしまっている。(「詩想五」)

<夢魔>も動物だろうか?獣たちだ。<蠍>が来る。
「胸骨の傷」はすでに<蠍>の住処。この<蠍>は<夢魔>からの使いだろうか。(「夜想」)

<哀れな野良犬>は「お前に唯一ついてきた良心」。
「君の言葉はたしかに繋がれた犬の遠吠えだった」
「先を行く者」は「ただ野良犬とともに天を仰ぎ/すべてを忘却していく」(「銃口」)

ところがです、
(「山下公園の回想」)では<鴎>が登場します。
「君は笑いながら/ときに泣きながら/鴎のように両手を大きく振って/泡立つ僕のこころの傷に海風を送る」のです。それから、<鳩>も出て来ます。鳩は死んだけれど、君はたしかに愛していました。

この<犬>は、野良犬ではないのでしょうか?
「(たとえばあの遊覧船の旅、犬との雪合戦、放課後の夕日・・・)」
華やかな色彩の最後の夢だったか。(「終わらない」)

<梟>がいます。光の玉を草の上に転がす老父の顔。
<魚>がいます。小さな魚は泉のなかに生き生きと泳いでいるのです。
<お前が真に愛した動物>たちに光の玉は守られています。(「喪失」)

そして<ツグミ>です。
<ツグミ>は、「君の精神に」降り立つ鳥の一羽です。
「歴史のごみ溜めを羽ばたいてきたツグミ」です。(「αの詩のために」)

また<犬>。
「私の傍らには犬しかいない」それでも・・・と云う私のたしかな羽ばたきを感じます。(「生命について」)

ああ、<亀>も居ましたよ。ここは好きです。
少年は胸をかきむしり、校庭のまん中で叫びます。
「頭の中で亀がひっくり返る/「いやだ、いやだ!」」

悲しそうな<犬>と<猫>、「君に相槌をしにくる」<白い鳩たち>。(「雪解け」)
<死んだ主人を待つ犬>。(「海岸」)
「昔あなたが私に聞かせてくれた終わりのない物語り」、「あの子犬たちのいる庭」の<子犬たち>。(「灯火」)

以下引用〜

おそらく世界のどこかに
今夜も窓にかかる月を眺めている少年がいる
ノートには星屑の航路が描かれている
楽しい形をした島々も浮かんでいる
少年の未来は美しい
僕らはついにそれを書けなかった

(「月光」)

〜引用終り

泉に銀河がわき起こり、動物たちが泣いたり笑ったり、逃げたり帰って来たり。
二人の若い詩人がこの泉に甦る。

もう日が昇り、白い月も消えてしまいました。
お疲れさまでした。
さあ出かけましょう。


著者 中村剛彦
発行 ミッドナイト・プレス
発行日 2010/1/26









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