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『カンテラ』06/11/2013/04144 [日刊忘れ女たち]

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20:04:30  Madam Silk  06/08/2013





   カンテラ   




けふはえびのように悲しい
角やらひげやら
とげやらいっぱい生やしてゐるが
どれが悲しがつてゐるのか判らない。

ひげにたづねて見れば
おれではないといふ。
尖つたとげに聞いてみたら
わしでもないといふ。
それでは一体誰が悲しがつてゐるのか
誰に聞いてみても
さっぱり判らない。

生きてたたみを這うてゐるえせえび一疋
からだぢゆうが悲しいのだ。

            『老いたるえびのうた』(室生犀星)



 なにを照らす為に彼方(あなた)はそこに立っているのか
 誰のものでもない光を
 借りてくると云って三下に頼んだ
 彼方と帰りたい
 聞き分けのない梅雨まみれの小学生のように
 カンテラを提げて

 道は遊ぶひとであふれていた
 いいえ ひとはただすこし物珍しそうに
 落ちつきのない歩行を繰り返した
 道はカメラマンや記者たちであふれかえっていた
 あたしたちはやるせなかったが幸せだった
 缶ビールを手に持って

 夢が空を飛ぶのなら
 何故
 地上の乗り物をこうして待っていることが
 なんの意味があるのだろう
 彼方は意味がないよを用意していたが
 カメラマンや記者たちに
 飲みかけの缶ビールを
 負け戦の時のようにひっかけただけだった
 おい
 もったいないことするなよ

 それに
 こゝろの力で
 それに
 こゝろの力で
 それに
 こゝろの力で幾ら彼方に
 それにこゝろの
 こゝろの力で幾ら彼方に
 こゝろの
 力で幾ら彼方に連絡しようとした処で
 カンテラを提げて

 なにを伝えてしまえばなんかこう
 気分がスッキリする
 なにを伝えたら良いのか
 よく分らない
 彼方のせいでも
 だれのせいでもない
 カメラマンや記者たちも
 振り返ればそう云っている
 缶ビールを手に持って

 日本初めての
 歩行者天国の日を
 昨晩遅く彼方はやって来て
 こう回想した
 闇の夢のなかで
 からだじゅうが
 空中となった過去のなかに浮いてしまい
 からだじゅうが
 悲しかった








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