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トシアキの船 [Facebookノートより(詩作品)]

 トシアキの船


 

船を視ました

ミネソタ行きではなく

トロイヤ行きの船を・・・

百一歳でよみがえった彼は

デッキで手を振っておりました

 

乗せてくれて

有難うヒロユキと云うので

違うよ

あたしは何もしていないよ

と教えました

面倒なこと云うな

おまえらしくもない

小さな穴だらけだったけど

ミネソタも良いところだったぞ

トシアキはそう云って

ミネソタを脱いだ

 

なにも分っていない

あなたは船に乗る前に

我を忘れて云っていたね

花ちゃん(仮名)を同級のキハル(妄想)に取られてしまったよ

くやしいな

信じていたあの人の心地よい流木に巡り会えない

腹の火照りの止まない

海亀のようだよ

 

終わる前の

そのことば

そして

スッスと船に乗り込んだ

カフスボタンの速度を少しあげて

トロイヤの船から

長く腕をのばして

ゆらるゆるると昇ったり降りたりしている

夜は更けて

青緑のソラへ

 

穴だらけの

花崗岩になったり

酸味の強い

細長のトマトになったり

円環まどろむ

木馬になったりしている

 

世界の終りを

あたしたちは視ることがない

トシアキの

船旅は

もうとっくに終わっているのかもしれない

けれど

作戦会議だ

あたしは乗船した

ミネソタも

トロイヤも

海の彼方だ

 

 

 

 

 

 

  *初出『榛名団 3号』(発行 2012.6.15、発行所 榛名まほろば出版)


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